君と春を
「冬瀬さん?」
「……佐原…くん。何?」
中学3年、春。
突然話しかけてきたのは生徒会長の佐原優也だった。
サッカー部主将で成績は常にトップ、おまけにかっこいいと女子からもてはやされる典型的なモテタイプの男の子だった。
「君が好きなんだ。僕の彼女になって?」
そう言ってにっこり微笑む彼。
昼休みの廊下のど真ん中だというのに周囲の視線を気にも留めないその振る舞いに、一部からは『きゃー』という悲鳴さえ聞こえる。
光に透けると茶色がかって見えるさらりとした髪。切れ長の目と高い身長、優しい話し方。
それらは確かに魅力的だったけど、当時私は他に好きな子がいたので…正直心は動かなかった。
「…ごめんね。貴方とは付き合えない。他に好きな人がいるから。」
まっすぐ向けてくれた気持ちにはまっすぐに、そう思って正直に言った。
でも…
「知ってる。野球部の佐藤だろ?
そんなの関係ないよ。
君は絶対俺のものになる。」
まるで未来を見てきたかのような自信溢れる言葉と態度に、私は絶句してしまった。
周囲のざわめきは増し、私の視界の端にはショックで泣いてしまっている下学年の子が映った。
…この人はこんな所でなんて爆弾を投げ込むんだろう。
ギャラリーの騒ぎに反してニコニコと穏やかに微笑む彼。綺麗な笑顔。
でも同時に私は、その明るい表情とは裏腹に…
瞳の奥が真っ黒に鈍く光るのを感じた。