君と春を
「っ!………専務だったんですね?あの時のタクシー呼ぼうとした男の人。」
その言葉に一瞬ピクリと反応した専務はくつくつと柔らかく笑いながら私を見下ろす。
「今それ?確かにそれはそうだけど、今思い出したの?どんなタイミングだよ。」
「……すみません。」
「いいよ。そういうところも好きだし。」
今度は私がピクリと反応する。
「……言ったろ。好きなんだ。
君をもっと知りたい。
笑顔を見たい。」
髪を撫でる手を頬に添え、優しく上を向かされると視線がぶつかる。
私はどんな顔をしているだろう。
心臓が、早鐘を打つ。
「………ずっとそばで守るよ。君だけを想って、大事にする。誓うよ。
だから…安心して俺のものになって。」
真剣な瞳に吸い込まれて動けない。ほんのり茶色がかった綺麗な瞳。
彼の想いが胸に刺さるほど伝わる。
涙が……零れる。
心を押さえつけるのが…もう限界だ。
「私……っ。壊れてしまうのが怖くて……。」
思いを、精一杯伝える。
「好きだった人に全てを奪われて…心が壊れてしまったんです。
親友が立ち直らせてくれたけれど…彼女も信用できなくなることが起こってしまって。
だから、心を凍らせたんです。
もう誰も…信じたくなくて。
人を想ったり、信じたりする自信がもう持てなくて。
もう…心の中は真っ暗なんです。空っぽなんです。
それでも……私を想ってくれますか?」
震える手が無意識に彼の腕を掴む。
溢れる涙はきっと…今まで気づかないふりをして押し込めて来た彼への想いだ。