君と春を



「俺から逃げて休憩所に行った時、近寄って来たヤツをフランス語で一蹴したろ?」

「…?」

キョトンとした顔で記憶を手繰っている。

……そんなに印象にないのか。

「…………………あっ、ああ…!」

この調子だ。ホント、罪な女。

「………専務、見てたんですか?」

ちょっと頬を染めて恥ずかしそうにそっぽを向く。

「見てたよ。追いかけて探しに行ったからな。なかなか衝撃的なフリ方だったけど、本人が覚えてないとは……」

「だっ…だって、あんなのいちいち覚えてられませんよ!」

「いちいちって………

今まで何人ああやって撃沈してきたの?」

「………さぁ。4人くらい…かな?」

………あれを4回もやったのか。

「いつもフランス語?」

「…いえ、他にもドイツ語とかポルトガル語とかその時の気分で適当に………すみません。」

………さすが、俺の女。



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