君と春を
「以上で……専務?聞いてらっしゃいましたか?」
「ん?聞いてたよ。相変わらず可愛い声だね。」
「……………聞いてらしたなら結構です。では。」
美月は俺の言葉をさらりとかわしてデスクに戻り仕事を始める。
メールチェック、スケジュール管理、俺の仕事の調整や海外企業からの連絡や書類の翻訳の依頼。彼女はかなり多忙だ。おそらく俺より。残業も多いし、気も使う。
出張から帰ってからだってほぼ残業続きだし、帰り時間が一緒になることも減っていて、隠しているようだが疲れているのがわかる。
でも愚痴を聞いたことは一度もないしそういう職種についたのだから当たり前だとハッキリ言い切っている。
俺には勿体無いくらいだよな。
真剣な顔で資料を見ながら作業を進めて行く様は凛としていて、時々無意識に見入ってしまう。
…ヤバイな。こんなに気持ちを持って行かれるなんて思ってなかった。
俺はきっともう美月に溺れてる。
キスだってまだ………意識のある時には、してないのに。
「専務?……大丈夫ですか?上の空ですけど何か問題でも…」
「………いや、何でもないよ?」
美月のことを考えてたなんて言ったらどんな顔するだろうな。
そんなことを思いながら、俺はやっと仕事に集中し始めた。