君と春を



打ち合わせのため社外に出る専務に同行するため、持って行く書類をチェックして一緒に専務室を出る。

誰もいないエレベーターに乗り込み、一階のボタンを押そうとした時。

「…っ!」

気づいたら後ろから抱きしめられていた。

「な…っ。専務?」

驚いて声を上げると耳元に甘い囁きを落とされる。

「…なぁ、俺限界なんだけど。」

「……なっ、何が……」

心臓がばくばくとうるさいのは彼の色香のせいだ。

「せっかくお前を俺のものにしたのに忙しくて触れるヒマもないなんて拷問だろ?毎日こんなにそばにいるのに。

美月は俺と、こんな風にくっつきたくないの?」

………直球すぎて心臓が飛び出そう。

「………ここは会社…っ!」

いとも簡単にくるりと後ろを向かされ、視線が混ざる。

腰を引き寄せられ、愛おしそうに唇をなぞられるともう、抵抗なんてできない。

「…言って、美月。俺に触れられたい?それとも、離れて欲しい?」

「…………」

ガタンとエレベーターが下る。誰かが呼んだのだろう。

「美月、早く。」

「……触れて欲しい………です。」

「………よくできました。」

その言葉と甘い微笑みにドキリとしたのと同時に彼のキスが降ってきた。

甘く啄ばむような、優しい優しいキス。

思わずスーツの袖を掴んで反応してしまうけど、それ以外どうしていいかわからない。

エレベーターが到着する頃には私の頬は真っ赤に染まっていて、その後仕事モードに切り替えるのが本当に本当に大変だった。


…専務のバカ。



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