君と春を
外食続きだった専務に野菜たっぷりのポトフとサラダ、ピラフを作る。どれも手がこんでいるわけでもないのに、美味しいとたくさん食べてくれた。
誰かに美味しいって言ってもらえることがこんなに嬉しくて幸せだったってことを暫くぶりに思い出した。
食後のコーヒーを入れて並んでソファに寛ぐ。
「そう言えば、あの本読んだの?」
イタリアから持ち帰った大切な本。
「あ、はい。中世ヨーロッパの修道院が舞台の推理小説でした。恋愛要素もあって…。
読みましたよ。お貸ししましょうか?」
「……美月が訳してくれるならね。」
「ふふ、日本語版もありますよ?今度探しましょう。」
……こんな風に自然に笑えるようになるなんて思ってもみなかった。
「本もいいけど……」
ふと気づくと、頬を撫でられていた。その瞳は愛おしそうに私を映す。
驚きと恥ずかしさで俯いてしまうと、顎に手を掛けられ上を向かされる。
視線が絡み取られて逃げられない。
「あ…の、専務?」
「…違うよ美月。ちゃんと、呼んで?
俺のこと、名前で。」
「………………」
心臓が高鳴って止まらない。微かに震える唇を、親指でなぞられる。
「言って。知ってるだろ?俺の名前。
『慎汰』。し ん た。美月の口から聞きたい。」
「…………あの…し…んた…さん。」
「……ふふ、よくできました。」
フワリとキスが降ってくる。
甘く、軽く触れるだけから次第に啄ばむように。そして更に…深く喰むように。
「……んっ。………ま…って。」
「やだ。もう待てないよ。」
さらに深く濃く舌を絡み取られる様に口づけられる。
「…っ!くる…し…っ!」
思わず彼の胸を突いて身をよじるけれど腰にまわされた手と頭に添えられた手が決して逃がさないと言わんばかりに離さない。
息もできないほどに責められて苦しいのに…もっとして欲しいと心が熱く疼く。