ヒカリ
コンコン、と硝子を叩く軽い音がして振り向くと、正人さんが立っていた。

「恵玲奈、何してたの?」

コート姿のままの正人さんが、ベランダに出てくる。

「おかえりなさい。星を見てたの。」

「星?」

並んでてベランダにもたれかかると、正人さんも空を見上げた。

「ねぇ。」

隣からかすかに消毒液の匂いが混じった正人さんの香りがする。

「正人さんは、私のどこが好きなの?」

星を見たまま、私は聞く。

こういう質問をするのは初めてだった。
正人さんに、好きだと、言われたことが一度もないことに、今さら気づいた。
正人さんは、私を好きではないのかもしれない。

でも、今は。

どこでもいい。

私のここが好きだと、声に出して言ってほしい。

顔でもいい。
髪でも、耳でも、例えば足指の爪でもいい。

なんでもいいから。



「…何かあったの?」

正人さんは心配そうに聞いた。

私は正人さんの顔を見上げて首を振る。

「なにもないよ。」



私には、なにもないよ。



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