ヒカリ
千香さんは、上体を捻ったり、反らしたりしている。


「千香さん、聞いてもいいですか?」

「ええよ。なに?」

千香さんは、腕をぶらぶらさせながら、私を横目でチラリと見た。


「千香さんは、どうして和菓子職人になったんですか?」

「和菓子が好きやから。」

即答だった。
千香さんは私をもう一度、チラリと見て、

「だって和菓子きれいやし。」

ニヤリと笑う。

「いつからなりたかったんですか?和菓子職人に。」

「うーん。小学生くらいかな?卒業文集にそう書いてたし。」

「きっかけとか、あるんですか?」

「通学路にね、和菓子屋さんがあったんよ。毎日、通るたびに、きれいなお菓子が並んでて、あんまりきれいやから、最初は飾り物やと思ってたん。和菓子って知ってからも、高いから買うてもらえへんくて、和菓子職人になったら、いっぱい食べれるかなぁと思ったんよ。」

私は思わず吹き出した。

「こらこら、なぜ笑う。立派な理由やないの。」

千香さんは、私の頭を叩くふりをした。

「そんな小さな頃から、夢があったなんていいなぁ。」

あ、と思った時には、スルリと本当の気持ちが口からこぼれ落ちた。

「夢?」

千香さんが笑いながら聞き返す。

「あんたにも夢はあるやろ?」

「私は…」

私には…ないよ。

言葉に詰まった私を見て、千香さんは声を出して笑う。

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