ヒカリ
工房の隅の作業台で、小学校の卒業式で渡す紅白まんじゅうに、一枚ずつのしをつけていく。

ひとつ、ひとつ、心を込めて、全てのお饅頭を包装し終わった時、ちょうどお店の自動ドアが開く音がした。

「いらっしゃいませ。」

お店の方から、もう一人のパートさん、清水さんの声がする。

「恵玲奈さん?あ、滝井さんの事ですか?」

ちょっとお待ちくださいねー、と清水さんの明るい声がして、私は体を固くした。
泉水かもしれない、と一瞬、思った。

今まで、泉水がこの店に直接来ることは一度もなかったけど。

「滝井さん、お客さん。」

ふくよかな清水さんがにっこりと笑う。
どんな顔をすればいいのだろう。
無意識に、前髪を少しといてから、清水さんの脇を抜けた。

思いきって、顔を出してみたら、そこにいたのは、白いニットワンピースを着た陶子ちゃんだった。

「あ、いた。」

陶子ちゃんは、私を見てにやり、と笑う。

陶子ちゃんは、ブーツのかかとをカツカツとならしながら、ショーケースに近づくと、中の和菓子をふんふん、と言いながら眺めた。

「これ、ください。」

陶子ちゃんが指差したのは、三月限定の御菓子、桃求肥だった。
桃いりの餡を柔らかい求肥で包んだピンクのかわいらしい和菓子。

お会計を済ませた陶子ちゃんは、袋を受け取り「ねぇ、今日何時まで?」と聞く。

私が呆気に取られていると、気をきかせたつもりなのか、清水さんがのんびりと、「滝井さん、5時で上がりよ。」と口を挟む。


陶子ちゃんは壁時計に目をやると、

「あと10分か。じゃ、店の前で待ってるから。」

と言い残して、私の返事を待たずに、自動ドアの向こうへと消えた。

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