ヒカリ
「泉水って、なんていうかさぁ、ひまわりとか、麦ワラ帽子とか、ビーチサンダルとか、そんな人だよね。カラッとしてて元気でバカ。そういうのが曲にも出てるんだと思うの。な、の、に。」

陶子ちゃんは、急に私に振り向くと、ぐい、と顔を近づける。

「なんか、あったの?泉水と。」

「な、なんかって?」

「泉水が最近、じめじめしてる。あのカラッと元気でバカな泉水が、まるで梅雨の時期のスニーカーみたい。あれじゃナメクジのほうがまだまし。なんかあったんでしょ。泉水と。」

陶子ちゃんは、猫目メイクをした目で私を見つめてまばたきをする。

「陶子、知ってるんだから。泉水と恵玲奈さん、付き合ってるんでしょ。」

「…付き合ってなんか、ない。」

「嘘だぁ。だって、泉水が楽屋に女の子連れてきたり、輝真たちに会わせたりするのなんて初めてだもん。」

「…陶子ちゃんだって、来てたじゃない。」

私が言い返すと、陶子さんは、ふん、と鼻をならす。

「私は呼ばれてないもん。押し掛けてるだけだもん。そんなこと、どうでもいいの。泉水と何があったの?旦那にバレて一悶着あった?」

「…そんなんじゃない。」

「じゃあ、なに?なんで泉水うじうじしてるの?」

そんなの。
私にはわからない。
泉水の今の気持ち、私にはわからない。
泉水が今どこで何して何を考えているのか。
急にさよならをした私をどう思っているのか。

私だってわからない。

「…陶子ちゃん、どうしてそんなに気になるの?泉水が好きだから?」

それまで、どうしてどうして、と叫んでいた陶子ちゃんが急に黙った。

「やめてよ。」

次に口を開いた陶子ちゃんは笑っていた。

「陶子が好きなのは、泉水の作る曲。だから、自称なんて言われてもマネージャーしてるの。陰でいろいろ言われてるだろうけど、気にしないの。陶子はオーガスタスの音楽が好きだから。」

陶子ちゃんは、眉をひそめて、

「言っとくけど、陶子は誰とも、寝、て、な、い、からね。」

一語一句、はっきりと言う。

「ほんと、バカみたい。ファンの子たちの噂話。聞こえてるっつーの。」

陶子ちゃんは誰にともなく、大声で叫んだ。
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