ヒカリ
お店を出た時も、まだ雨が降っていた。

もうすぐ三月も終わるのに、寒い。

「今日は花冷えだね。」

タクシー乗り場まで歩きながら、正人さんはそう言って私に自分のマフラーを巻いてくれる。

茶色のバーバリーのマフラーは、私が去年の誕生日に贈ったものだ。

正人さんの体温が残るマフラーは、温かかった。
マフラーに鼻を埋めると、正人さんの匂いがする。


タクシーはすぐに来た。
走り出したタクシーの窓に、雨粒が次から次へと筋を作る。私はそれをずっと見ていた。
まるで涙みたいだ、と思う。
でも、誰の?



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