ヒカリ

「僕が前の妻と結婚したのは24歳の時だった。相手は幼馴染みでね。僕はまだ医者になったばかりで、お金もなくて小さなアパートで暮らしてた。」

正人さんは真っ直ぐ前の白い壁を見ていた。
そこに、24歳の正人さんと前の奥さんが見えるかのように。

「結婚して一年が経った頃、彼女が亡くなったんだ。雨の日に、交通事故で。」

正人さんは、アップルタイザーの瓶をことり、と置くと、指を組んだ。
正人さんの左手の指輪が光る。

「彼女は、妊娠していたんだ。事故がなければ三ヶ月後に生まれるはずだった。女の子で、名前も決まっていた。」

思わず息を飲んだ私を、正人さんは穏やかな目で見つめた。

「名前は、えれなにしようって。決めてたんだ。」