ヒカリ
「…い」


泉水、と無意識に言おうとするより早く、私は泉水に抱き締められていた。


持っていたビールがばしゃん、と落ちた。


観客たちがものすごい歓声をあげる。
泉水の胸の中で、それを聞いた。

ステージでは、輝真くんがジンジャーエールを歌っている。

「恵玲奈、どこ行ってたんだよ。」

泉水はぶっきらぼうに耳元で叫んだ。


「さようなら、とか言うなよ。」


「だって…」


「だって、じゃない。俺だって恵玲奈にキスしたかったのに、ずっと我慢してたのに、恵玲奈は簡単にしてくるし、したと思ったらいなくなるし。なんなんだよ。」

もう泉水の声は怒ってはいなかった。
泣いてるみたいな声だった。


「泉水、泣いてるの?」

「泣いてない。」

「良かった。」

「良くない。」


急に腕が解けたかと思うと、泉水は私の手をひいて出口に向かって走り出した。


ライヴハウスを出る時、輝真くんが「good luck izumi」と叫んだのが聞こえた。

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