ヒカリ
無言で泉水は歩き続けた。

私の右手は、泉水の左手の中。

夏の夜特有の湿った匂いがする。

着いた先は、あの公園だった。
泉水はどんぐりの森まで行くと、ようやく足をとめて、振り返った。


「いろいろ聞きたいことはあるんだけどさ。今はどうでもいい。恵玲奈の気持ちを知りたい。」

泉水はまっすぐに私を見つめる。
繋いだ手が温かい。

「私は、」

今まであったことが、頭の中をぐるぐると駆け回った。

泉水に会わなかった間のいろいろなこと。
正人さんのこと。
私の名前のこと。
仕事のこと。
アパートのこと。
陶子ちゃんのこと。


私は泉水の目を見た。
澄んだ瞳が私を見つめる。


いろいろ話したいことはある。
だけど、今はどうでもいい。



「私は泉水が好き。」




< 144 / 147 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop