ヒカリ
私たちは夫婦であるけれど、別々の部屋で寝ている。

寝ているどころか、私はうちにいる間、ほとんどこの部屋にいて、正人さんも、ほとんど自分の部屋にいる。

もっとも、正人さんの場合、うちにいる時間というのが、ものすごく少ないのだけど。

結婚して、もう二年になるけれど、私と正人さんはお互いに一定の距離を置いて暮らしている。
お互いに干渉はしない。
会話もあまりしない。

『奇妙な関係』と言われればそうかもしれない。

だからといって、私と正人さんが不仲というわけでは決してない、と思う。
少なくとも私はそう思っている。

出会った日とか、結婚記念日とか、私の誕生日には、必ずお祝いをする。
休みが取れたら旅行にだって行く。

この間のお正月も、四日も休みが取れたから二人でタイに行ったのだ。

たくさんの寺院をめぐり、私はスパも体験したし、いろんな料理も食べに行った。
民芸品店に立ち寄っては、小さな仏像とかきれいなピアスとかを眺めた。

そのたびに正人さんは私に言った。

「恵玲奈、どれが欲しい?どれでもいいよ。」と。

それから、こうも言った

「友だちにお土産買わなくていいの?」と。

あまりにも正人さんが心配するので、私は友だちがいないことを知られたくなくて、適当にいくつかアクセサリーを選んだりした。
それらは、私によって日本に帰ってすぐ部屋のクローゼットの奥にしまいこまれた。

その時に、思った。あぁ、友だちが欲しいなぁ、と。

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