ヒカリ
男の人は私たちに気づいていない。
背中を丸めて、ギターをかき鳴らし、たまに小さい声で鼻唄のように唄う。
誰に聞かせるでもなく、自分の声とギターの音を楽しむように。

つい息を潜めていた。
私も、それからチャーリーも。

モンゴリアンチョッパーズの楽曲を三曲唄ったところで、男の人が手を止めた。

私はそっと後ずさりをすると、チャーリーを抱き抱えて走り出した。

聞いて欲しくて弾いてるんじゃないことはなんとなく分かった。
だから、聞いていたことを知られなくなかった。

公園の出口について、ようやくチャーリーを解放した。
心臓が痛いくらいバクバクと拍動している。

バレなかっただろうか。

久し振りにモンゴリアンチョッパーズが聞けたのは本当に嬉しかったけど、明日からこの公園は散歩コースから外そう。
すっかり暗くなった住宅街を歩きながら、そう心に決めた。

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