ヒカリ
「恵玲奈は?」

「え?」

顔を上げると、泉水が軽く首をかしげて私を見ていた。


こうして真正面からまじまじと見ると、肌もつるつるだし、ぷっくりした涙袋が色っぽくて、女の子みたいだな。

「恵玲奈は何になるの?」

「私?」

「うん。」

泉水から思わず目をそらした。
まず食べかけのドーナツを、それから窓の外に目を向けた。

「私は。」

外を歩く人たちは、みんな身をかがめて寒そうに急ぎ足で歩いている。

「私は何にもなりたくない。このまま、何もかもこのままでいたい。」

本当は。
何かになりたい。
自分以外の誰かに。
例えばギターを弾くときの泉水みたいに。
将来の夢を語る泉水みたいに。
本当は私も、何かに夢中になりたい。

でも、それを口にするのは嫌だった。
強がりでも見栄っ張りでも、いい。

「私は今の人生に満足してるから。」

弱音を吐いて、慰められるなんてまっぴらごめんだ。

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