ヒカリ
次のバンドが始まってしばらくした頃、肩をぽん、と叩かれた。

振り向くと泉水が笑って立っている。
さっきとは違う白いティーシャツを着ていた。

泉水はゼスチャーで私に着いてきて、という。
私たちは、最初に泉水が出ていったのと同じ扉から外に出た。
冷たい風が一気に吹いて、私の髪がぶわっと舞う。
ほてった頬が冷やされて気持ちいい。

「どうだった?」

外階段を上がりながら泉水が聞く。

「すごかった。」

そうとしか言いようがないから、そう言った。
泉水は、ははっと笑ったようだった。

階段の先の部外者立ち入り禁止、と書かれた扉を開けると、野球部の部室のような汚い部屋だった。野球部の部室に入ったことなんてないけど。
ただの勝手なイメージだ。

ただ、野球部の部室と明らかに違うのは、小さなローテーブルの上に置かれた銀の灰皿に積まれた山盛りのたばこの吸殻。

10畳くらいの長細い部屋には10人ほどの人がいた。
パイプ椅子やローソファが置いてあり、いくつかのグループに別れてたばこを吸ったり、ギターを弾いたりしている。
黒い壁にはたくさんの落書きがしてあった。

奥のソファにオーガスタスのメンバーが座っている。

「お、泉水。だれ?そのかわいこちゃん。」

話しかけてきたのは、オーガスタスのボーカルをしていた人だ。
たしか名前は輝真くんって言ったっけ。お坊さんっていうから、てっきり坊主頭なのかと思ったけど、ツンツンと毛先を遊ばせたおしゃれな髪型をしていた。
一目見て、誰しもがかっこいいという正統派のイケメンだった。

泉水は「かわいこちゃんってなんだよ。」と笑いながら、ツンツン頭をぐしゃくしゃにして、

「この子、恵玲奈。」

とやや乱暴に紹介してくれた。

「こいつ、輝真。こいつラリー、こっちはサク。」

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