ヒカリ
泉水は、もちろんあるのだろう。
きっと、何回も何回もあるのだろう。

「恵玲奈、入るぞ。」

思わず、下を向いていた私の右手を、泉水が取った。

泉水の大きな温かい左手に、すっぽりと包まれる私の右手。

泉水はそのまま、何も言わずゲートのスタッフにチケットを二枚渡すと中に入った。

中に入るとすぐに、水槽のトンネルがあった。
上を向くと、大きなエイが優雅に渡っていく。

「…きれい。」

まるで海の中にいるみたい。
知らなかった。
水族館って、水色の世界なんだ。

私は、今までどれほどのものを経験せずに過ごしてきたんだろう。
泉水が見てきた世界を、私はどれほど素通りして生きてきたのだろう。

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