ヒカリ
泉水が驚いた顔をして言った。

「恵玲奈の手、冷たい。」

手が冷たいことに、というよりも、私が触れたことに驚いたように見えた。

「取れたよ。」

そっと指先を話して、真正面を向く。
視線の先には、さっきの親子がまだ押し問答を繰り返していた。


「ああいうのを見るとさ。」

泉水は私と同じように、真正面を見てふふっ、と笑う。

「大人になってよかったな、とつくづく思うよ。」

私は真正面を見たまま、泉水の声を聞く。

「好きなだけ遊べるし、帰りたい時に帰れる。大人って自由だよな。なんだって出来る。」

「なんだって、は無理でしょ。」

呆れながら、私は言う。ほんとに泉水は子どもみたい。

「なんで?なんだって出来るよ。大人なんだし。」

「無理なこともあるよ。」

「例えば?」

泉水の言葉に少し考えた。ありすぎてどれを答えるか悩んだだけだけど。

「私がギターのFコードを弾く、とか。」

子どもな泉水にも分かるように、分かりやすい答えを出してあげたのに、泉水は、

「なに言ってんの?」

と不思議そうな声を出した。

「そんなの出来るって。恵玲奈がやりたいなら、出来るんだって。」

「でも、私は泉水みたいに指が長くないから。」

「そんなの関係ないの。指が短くたって、やってる人いっぱいいるんだし。やる前から諦めるから出来ないんだよ。」

「なによ、それ。泉水、むかつく。」

思わず、尖った声が出た。
泉水をにらみつける。
なによ、わかったようなこと、言わないでよ。


だけど、本当はわかっていた。

泉水の言葉が事実だってこと。
本当のことだった。私はやる前から諦めて生きてきた。

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