ヒカリ
「恵玲奈はもっとやりたいこと、やればいいのに、って思っただけ。」

泉水はベンチの背もたれにもたれて、暗くなり始めた空を見上げながら言った。

「なにをびびってんだよ。恵玲奈の人生だろ。」


泉水は呟くように言った。

私も泉水と同じように、空を見上げた。
本当は言い返したかった。
本当に泉水は子どもね、って。
本当になんにもわかってないのね、って。


「恵玲奈って名前が、私は嫌いなの。」

だけど、私の口から出たのはそんな言葉だった。

「エレナなんて、まるでハーフみたい。それなのに、私はどこからどう見ても、思いっきり日本人だし。変わった名前だね、なんて言われて。この名前のどこに親の願いが込められてるんだろう。なんとなく、とかその時の勢いで決めた、って感じがする。大体、私は出来ちゃった子だし。」

昔、クラスに愛ちゃんっていたっけ。
羨ましかったな。
みんなから愛されますように。
誰かを愛せますように。
そんな願いを込められてる気がして。


「でも、俺は」

並んで空を見上げたまま、泉水が口を開いた。
すっかり暗くなった冬の空には、オリオン座が見える。

「好きだけど。恵玲奈って名前。」



オリオン座から南にの方向に目をやると、おおいぬ座のシリウスが見える。


空で一番明るく光る星、シリウス。


「ありがと。」


泉水はまるで、あの星みたいだ。



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