ヒカリ
寒そうに両手をポケットに入れて歩きながら、マンションの正面玄関まで泉水は送ってくれた。

「チャーリーによろしく。」

泉水はそう言って笑う。

「あ、それから。」

思い出したように付け足した。

「陶子が一回ゆっくり話したいって言ってた。」

「陶子ちゃんが?」

「うん。」

なんでもないことみたいに明るく頷く泉水を見ながら、胸がざわつく。

「なんでだろ。」

「友だちになりたいんじゃない?」

そんなはずない。

陶子ちゃんは泉水が好きなのかもしれない。
泉水は本当に鈍い。
人と人は誰でも仲良くなれると思ってる。


「陶子ちゃんってどんな子?」

「どんな子って難しいなぁ。」

泉水は眉にしわを寄せて考え込んだ。

「あー、あれだ。恵玲奈とは真逆だ。」

「私と…真逆?」

「うん。陶子ね、陶子ねって自分のことばっか話す。人の話を聞かない。余計なことに首を突っ込むし、無駄にいつもンションが高い。それに酔うとすぐからむしすぐに泣く。そういうやつ。」

そっか。
本当に私とは真逆だ。
悲しいくらいに、私と陶子ちゃんは全く似てなくて、きっと仲良くなれない。


「あと、陶子は学生。服飾系の専門学生。将来はデザイナーになるんだってさ。」

「そっか、ありがとう。…じゃあ、おやすみなさい。」

唐突に私は話を切った。
不自然なほどにきっぱりと。

だけどこれ以上、泉水から陶子ちゃんの説明を聞きたくなかった。

「おやすみ。」

泉水は不思議がりもせず、いつものように顔いっぱいで笑って手を振る。

振り返りもせず、オートロックを解除すると、ふかふかのカーペットに足を踏み入れた。
生活感のない、ショールームみたいなロビーを抜けてエレベーターホールについた時、涙が一粒こぼれて、大理石の床に音もなく落ちた。


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