白煙
凛が失礼しますと一礼してから
保健室のドアを開けた。


『(あ‥‥)』


保健室からは消毒液と
干したてのお布団の匂いがした。


【その子が怪我した子?
ちょっと傷、見せてくれる?】


そういって保健室の先生が
私に近づいてきた。


凛に怪我をした理由を事細かに
説明されたのが恥ずかしすぎて
私はろくに先生の顔を見ることが
できなかった。


そんな私をよそに、額にかかっている髪を
そっとすくい上げて傷をみて
にっこり微笑みながら言った。


その時、一瞬だけどふわりと
甘い煙草の匂いがした。


【あー‥‥確に少し切れてるね。
でも消毒さえすれば、傷跡も残らないだろう。
消毒するからそこ座ってて。】


『あ、はい‥‥。ありがとうございます。』


私は軽く一礼して凛と一緒に
保健室を後にした。
先生は、お大事にと笑顔で私たちを
見送ってくれた。


この時はまだ知らなかった。
保健室の先生の名前も顔も。
知っているのは声とまとわりつくような
甘ったるい煙草の匂いだけだった。
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