こころチラリ
それは4月のある日。
以前から体調不良だということで不在だった課長が正式に退職し、新たな課長が就任するという話が降って湧いた。
(こんな中途半端な時じゃなく、ちゃんと新年度からにすればいいのに…。)
美波はデスク周りの片付けをしながら、つい考えていた。
今までの課長はどこか覇気がなく、若手にやりたい放題されていたおじさんだった。
だが美波にも分け隔てなく接してくれた唯一の上司。
残念で仕方なかったが、それはそれ。
仕事なんだから、と考えるのが彼女の真面目な一面だ。
「瀧本さん。」
不意に声をかけられ、美波はハッと顔を上げる。
(声にでちゃってたかしら、、、)
目線の先には同じ総務課の社員、美波にやたらとキツく当たる江川陽菜だ。
「はい。」
「新しい課長の話、あなた知ってる?」
薮から棒に話す彼女は何やら探りを入れているのか、少し眉間にシワを寄せ早口に言った。
「え?あ、いえ、何も。今日から出社されるとだけ」
「あぁそう、じゃあいいわ。」
言い終わらないうちに陽菜は言葉を被せ会話を終わらせる。
いつもこうだ。
ゆっくり、丁寧に話す美波を"グズ"と言って揶揄する彼女のやり方だ。
「…はぁ。」
うまく行かないな。ちゃんと話す事ができたら、こんなふうにならないのかな。
ため息がまたひとつ、溢れた。