さちこのどんぐり
病室への帰りの廊下で

「ねぇ、退院してからも私と会ってくれる?」

香奈がそう尋ねると、正樹は少し困ったような表情しながら


「いいよ!そのうち病院じゃなくて外でデートしような」

香奈は正樹の声に不思議な感情の揺れを感じていた。




二人が売店の辺りを過ぎて、しばらく歩いたとき

「そこ手摺気をつけて」

正樹が言った。


いつもの場所でいつもの言葉
そのとき正樹の手が香奈の手に触れた。

「何回も言わなくったって、大丈夫だよ。」

そう言って、ドキドキしながらも
香奈は正樹の声に感じた切ない感情のことを考えていた。



病室まで香奈を送り届けてから、正樹は再びカフェテリアのテラスにいた。
既に日が傾きかけていて、さっきより肌寒い。


さっきの白いネコが正樹に近づいてきた。

「お前…まだいたのか…」


ネコは正樹の足元にくわえていた「どんぐり」を置くと
彼を見上げて、

にやー



正樹はその「どんぐり」を拾いあげると、それをしばらく見つめていた。

「お前…俺を慰めてくれているのか…」


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