さちこのどんぐり
念のため母に付き添われながら、
術後、初めて香奈は自分の目と足で診察室への廊下へ出た。

まっすぐ、白を基調にした清潔感のある廊下は、
窓から入る日差しで明るかった。

そこを通る医師や看護師や患者たちの話声や
待合スペースからの喧噪に包まれ
香奈は一瞬体を固くしたが、次第にそれにも慣れてきて…

辺りを確認するように見渡しながら、一歩一歩、足を進めていた。



見える…





廊下をゆっくり歩いていくと、
その先に売店の案内表示がある。

その少し手前

「…!」

廊下の左側にある白い壁に取り付けられた木製の手摺に
少し切れているところがある。



その手摺を指でなぞりながら

香奈は、
ゆっくり目を閉じた。








「そこ手摺気をつけて」




やさしい声だった。
やさしいひとだった。






「うん…大丈夫だよ…」





会いたかったよ




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