さちこのどんぐり
「ちょっと、あなた!」
奈津美は呼ばれてどきっとした。
「こんな時間だし、どこか診てくれる獣医さん知らないか?」
「ごめんなさい。私、最近こっちに来たばかりで…」
「そうか…それじゃあ、わかんないよな」
スマホで獣医の検索をしながら、
「俺もこっちには今年、引越して来たから、そういうの知らないんだ」
しかし、
そのとき奈津美は犬を飼っている友達のことを思い出した。
彼女とは毎週、同じ講義に出ていて親しくなった。
確か、家はここから、そう遠くはない。以前二人で話しているときに
予防接種だの検診だのと、よく獣医に犬を連れて行っているため
「お金がかかって大変」
とぼやいていたのを覚えている。
さっそく、奈津美がその友達に電話してみると、
「わかった。いつもお世話になってる獣医さんに連絡してみる」
と言ってくれた。
しばらく待っていると、その友人からの折り返しの電話がきて、
遅い時間にもかかわらず、これから診てくれる獣医を紹介してくれた。
そのことを、その男性に告げると
「ありがとう。俺は部屋戻って車を持って来るから、ここでこいつ見てて」
「えー!一人でここで待つんですか?」
奈津美は不安だった。
「うーん?」
そのひとは少し考えてから、胸の内ポケットから名刺を出して、
「じゃあ、一人で、もし何かあったら、これに書いてある携帯に電話して。
とにかく10分くらいで戻ってくるから、ここを頼む!」
そう言って彼は走って行った。