さちこのどんぐり
その日をきっかけに、大森と奈津美は一緒に食事することが多くなった。

大森はいつしか、それが楽しみになっていた。

一方、奈津美も
「大森和也、40歳、損害保険会社に勤めてて、趣味は学生時代にやってたサッカー。でもゴルフはへたくそ。好きな食べ物はハンバーグとオムライス…」
と大森のことを考えることが多くなった。

大森といるときは素直になれている自分に気づき、大森といるときの居心地のよさと大森に会いたいと思っている自分にも気づいた。

そして、大森を異性として好きになってしまっている自分にも。




なんとなく食事をしながらの会話がきっかけで
週末休みに二人でお台場の「ガンダム」を見に行った。

ガンダム世代の大森は熱く「ガンダムの世界」を奈津美に語った。

その帰り道も、大森はずっと「ガンダム」について語っていた。

そんなものに興味もなく、そのアニメ自体観たことのなかった奈津美だったが
普段と違う大森のそんな様子がおかしくて、笑顔で彼の話を聞いていた。

「前嶋さんも、時間があったら一度観てみたら。本当に面白いから!」

「DVDとかあるんですか?」奈津美がそう尋ねると、

「俺は最新作まで全部DVD-BOXで持ってるよ。」

「大森さんがDVD持ってるんなら、それを観に行ってもいい?」

「え!俺の部屋に来るってこと?」大森は少し慌てた。

「うん!だって観るように勧めてくれたのは大森さんでしょ。」

そんなふうに、あっさり言っちゃう奈津美に大森は何も言えず、そのまま二人の乗った車は
夕方、まだ薄明るいうちに大森のマンションに着いてしまった。

「うわ!すごーい」奈津美は初めて見る大森の住むマンションに驚いた。
賃貸だと聞いていたが、いったい家賃はいくらぐらいするんだろう?

オートロックの入口を抜け、エレベータで部屋のある8階まで上がる。

カードキーでドアを開ける大森の後から奈津美は部屋に入った。

広いエントランスには、ほとんど物がなく。
トイレや洗面所であろうドアが並ぶ廊下の先に対面式キッチンと広いリビングがあった。
その奥にはウォークインクローぜット付の寝室があるらしい。

リビングも落ち着いた感じで、生活感がない。

「おしゃれー」
そう感じながら、奈津美はさっそく、ここに来たかった目的を果たそうと動いた。

床、キッチン、洗面所、トイレとさりげなく覗き…

「よーし!女の痕跡はない!」
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