さちこのどんぐり
「坂崎さんも、ご夫婦でデートですか?」
「いや…あと娘も来るんだ。これから家族3人で食事をすることになっててね」
「そうだ!坂崎さん、ご存じありませんか?
この駅の近くにあるオムライスが美味しいお店。
名前は『キッチン浜』っていうらしいんですけど…」
そう奈津美が言いかけたとき
「お父さん、お待たせー」香奈が遅れてそこにやってきた。
香奈の隣には浩二と結衣もいる。
「『キッチン浜』やったら知ってるよ」浩二が奈津美に言った。
「俺が案内してやるよ」
坂崎たちと別れて、
浩二と結衣の道案内で奈津美たちは無事「キッチン浜」にたどり着いた。
細い路地を通り抜けたところにある、昔ながらの「洋食屋さん」といった雰囲気。
「ここや!」
「ありがとう。サイトで見つけて、どうしてもオムライスが食べてみたかったんだ!」
そう言う奈津美と、
「浩二」という関西弁の混ざった話し方をする高校生を大森は黙って見ていた。
彼の心の中にある一つの「思い出」がひっかかっていた。
「まさかな…そんな偶然…」
大森と奈津美は「キッチン浜」の店内へ、
浩二と結衣はまた駅のほうへ二人仲良く並んで歩いて行った。
「お店見つかって良かったね。お腹空いちゃったなぁ」
テーブルの向こうで微笑んでいる奈津美を見ながら大森は考えていた。
今夜あたり絶対、坂崎から電話が来るな…
この日、「笑顔」だった登場人物たち
彼らは気づいていないが、
皆、さちことどこかで出会っていた。