さちこのどんぐり
さちこの目に
アパートの二階のベランダに
青いセーターを着た小さな男の子が座っているのが見えました。

さちこが塀伝いにベランダへ登り、その男の子に近寄ってみたら

「あ!ネコだあ!」

でも、その男の子は顔に殴られたようなアザがあって
もう暗くなって、すごく寒いのに、それに人間なのに外にいる…

「どうしたんかにゃ?」


その男の子、コウタくんは8歳。
去年の夏にお父さんとお母さんが離婚しちゃって、それから
お母さんに連れられたコウタくんには、すぐ新しいお父さんができました。

最初は優しかった新しいお父さんが、なんだかイライラしてて、コウタくんを殴ったり蹴ったりするようになったのは3ヶ月ほど前から。

今日も「お仕置きだ」と怒鳴られ、散々殴られた後にベランダに出されてしまいました。


そんなときコウタくんはベランダに置いてあった四角い缶の箱にいっぱいの「どんぐり」を眺めます。

前のお父さんと近くの公園で集めた「どんぐり」
それを眺めていると楽しかった、
そして幸せだった日々が甦ってきて体が暖かくなるから。

「このネコ、お腹空かしてんのかな?でも、ごめんね。ボク食べもの持ってないんだ。」

コウタくんはさちこの頭を撫でながら話しかけました。




結局エサにありつけないまま、すっかり夜も更けてきました。
寒かったので、さちこは道端の自動販売機のかげで寒さを凌いでいました。

「それにしても…お腹が空いたにゃー」

さちこは優しかったこれまでのご主人たちを思い出していました。

「帰りたいにや…」

でも、その夜
さちこは通りかかった男の人から「魚肉ソーセージ」をもらうことができました。


< 151 / 163 >

この作品をシェア

pagetop