さちこのどんぐり

「はあ…」
小野寺は4度目の溜息をついた。



ふと…白ネコが置いていった「どんぐり」が目に入る。

そういえば、ガキのころ近くの公園で拾ってたなぁ…
何に使うわけでもないのに…


最近になって冷静に考えた結果、
小野寺は彼女と別れてしまった理由がわかってきた。

「一緒についてきてくれ」と言えば
「私にも仕事があるのよ」って怒り、

「遠距離でがんばろう」と言えば
「どうして俺について来いって言ってくれないの」って怒った。

彼女が彼に求めていた言葉は

「結婚しよう」

だったのだ。

彼女に仕事を捨てさせ、一緒に東京に来たかったのなら、
その決意を伝えなきゃいけなかった。

その頃の小野寺は、それが分からなかった…というより、
それに気付いていながら、「結婚」を口にすることに躊躇いがあった。

つまり、

「俺の優柔不断のせいで別れちゃったんだ」




小野寺のポケットのなかには
結局送ることができなかったメールが保存されているスマホ


「いま幸せですか?」


別れちゃったけど…

寂しいけど
辛いけど
でも…






「いま幸せです」


そうだったらいいなぁ…


小野寺はベンチから立ちあがって、空を見た。
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