さちこのどんぐり
◆登山家の遺書
明石海峡大橋のたもとにある閑静な住宅街にある落ち着いた造りの洋館風の家で
「すまんな…」
妻の初美の発案で3年前から飼っていた白いネコを
訪ねてきた知人夫婦に預けるときに
山下秀夫は、ネコにそう言った。
窓から差し込む薄赤い西日に染まりながら、白いネコは
寂しそうに「にゃー」と答えただけだった。
登山家である山下は60歳を過ぎていた。
その真っ白な頭髪と髭に縁取られた彼の表情には優しさと悲しみがうかんでいた。
そんな彼は
5日後にエベレスト登頂に向けて旅立つ。
そのため日本を離れる前に山下はネコの世話を知人に頼んだのだった。
「すまんな…」
妻の初美の発案で3年前から飼っていた白いネコを
訪ねてきた知人夫婦に預けるときに
山下秀夫は、ネコにそう言った。
窓から差し込む薄赤い西日に染まりながら、白いネコは
寂しそうに「にゃー」と答えただけだった。
登山家である山下は60歳を過ぎていた。
その真っ白な頭髪と髭に縁取られた彼の表情には優しさと悲しみがうかんでいた。
そんな彼は
5日後にエベレスト登頂に向けて旅立つ。
そのため日本を離れる前に山下はネコの世話を知人に頼んだのだった。