さちこのどんぐり
ゴォーゴォー…
尾根を抜ける気流が唸り…

ゼィ…ゼィ…
耳には自分の呼吸音しか聞こえない。

低酸素で目がかすむ…

体が鉛のようだ。

重い腕を前に出す…

そして重い体を少しずつ…
少しずつ…



ゴォーゴォー
尾根が、
空が、唸りをあげている。

もうすぐ山頂だ。

藍色の空にブルーが重なる。

かすんだ目に目映い光を感じる。




ああ…晴れてきた。




「妻よ。息子よ。俺はどうしても
 またエベレストに登りたかったんだ…

 だって…



 だって、ここは






 地球上でいちばん天国に近いから」



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