さちこのどんぐり
彼は身長は170cmくらいで高いほうではなかったが
幸い太りにくい体質であったため、
体型は若い頃から維持できている。
また、もともと容姿は悪くなく、
年齢の割に、やや長めの髪型と
独身でいるせいか、年齢より若く見られることが多かった彼は
これまでも、何人かの女性と付き合ってきたが、いまだ独身。
転勤が多い仕事のために、結婚するタイミングを逃してきたと周囲には説明していたし、
彼自身もそう考えるようにしてきたが、本当の理由は分かっていた。
でも、このまま一人も悪くないはずだ。
大森はそう考えるようにしていた。
オフィスに戻り、そろそろ片づけて帰る支度をしようか、
そう考えていたとき、大森のデスクの電話が鳴った。
「大森です」
電話に出た彼の耳に懐かしい声が入る。
「大森所長ですか?ご無沙汰しております。
町田の営業所でお世話になった金森です。」
「金森君か!久しぶりだな。どうしたんだ?こんな時間に電話をくれるなんて」
「じつは、今担当しているジャパンモーターの社長が昨日亡くなったんです。
大森所長も昔、担当されていたと聞いてたんで、ご連絡をと思いまして…」
その社長であった金子雄二のことを大森は今でも覚えている。
彼が損害保険会社に新卒で入社し、
まだ新入社員のころに担当していた取引先の自動車整備会社の社長だった。
金森から聞いた葬儀の日程は明日お通夜があり、明後日に葬式が執り行われる。
スケジュール帳を開いて予定を確認した大森は
お通夜には行けないものの、葬式には行くことにした。