さちこのどんぐり
「こいつはバカだ!」
結衣は心のなかで叫んだ。
考えてみると、このバカが小学3年の終わりに関西から転校してきて以来、
家が近かったせいもあり「幼なじみ」という仲だったが
かなり前から「こいつはバカだ」と結衣は思っていた。
転校してくる半年くらい前に母親を病気で亡くしたと聞いて
最初のころは少し気を遣いながら話しかけたりしていたが、
こいつはただ明るくて、バカ
よりによって…
なんだ!その告白!
昨日、浩二と会う約束をした時点で、なんとなく
「こいつ、告白してくるんじゃ…」
と期待していたら…
これ…?
ありえん…絶対にありえん…
生まれて初めての異性からの告白が…
よりによって、これ?
これまで17年の人生で…
初めての記念すべき、
一生の思い出となるだろう「ときめきの瞬間」が…
ただ街をブラブラしただけのデートの最後に
暗くなって、冬のイルミネーションの輝きを一望できる歩道橋のうえで、
よりによって、なぜ、その告白?
結衣は茫然と、このバカを見つめていた。
離れたところから、さっきのネコが
この可笑しく、バカバカしい2人を眺めているのが見えた。
「なんで、そんな告白しかできないの!」結衣は浩二に言った。
「いや…なんていうか…俺は真面目に結衣が好きなんだ。」