さちこのどんぐり
◆ぼくもう三年生やもん
新入社員のときに担当していた自動車整備工場の社長の葬式に参列した大森和也が部屋に帰ってきたのは、19時過ぎだった。

当時、とても世話になった大恩人を見送った直後で、
なんとなく食欲もなかった彼はいつものように外で食事をすることも
弁当の類を買ってくることもなかった。

礼服を脱ぎ、とりあえずシャワーを浴びる。

さっぱりして、テレビを観ながら缶ビールを一本飲んでいると

「やっぱ…お腹空いたな…」

ソファから立ち上がり、対面式のキッチンの向こうにある冷蔵庫を
開けてみる。

取りあえず食べられそうなものは…

面倒のないラーメンにするか…いや、気分としては米が食べたい。

卵がある。玉ねぎも、ハムもあるし、真空パックのご飯。

「よし!オムライスを作ろう!」

一人暮らしが長く、学生時代は飲食店でのアルバイト経験が多かった彼は
意外に料理は嫌いではなく。むしろ好きで、しかも上手かった。

オムライスは得意料理でもあり、彼の大好物。

手際よく玉ねぎから炒め、ハムを使ったチキンライスを作り、
それを卵焼きで包む。

いい感じだ。子供の頃から思わずワクワクしてしまう色と形。

「そういえば…」

「オムライス」によって、大森の脳裏に、ある記憶が蘇った。

それは、10年ほど前。

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