さちこのどんぐり
それから数日後の二十二時過ぎ、会社帰りの大森は電車のなかにいた。
なにげなく見たニュースアプリにはアパートのベランダで八歳の子供が亡くなっていた事件に関する記事が載っていた。
その事件の数日前にも近隣の住人から児童相談所に通報があったことが判明したため、現在、警察が両親から詳しく事情を聞いているとのことだった。
そのニュースに気分が悪くなった大森はスマホをポケットにしまうと、窓の外に目を向けた。
やがて彼が乗っていた電車は目的の駅に着いた。あれから、あの日に出会ったネコを、「今日はいるかな?」と、探してみたが、彼が再び、あのネコを目にすることはなかった。しかし、その日も大森は、いつも寄る駅前のコンビニで「魚肉ソーセージ」を二本買い、家路に向かっていた。
そのとき、彼のスマホが鳴った。
それは久しぶりに聞く千葉に住んでる友人の坂崎義男の声だった。
「大森か?俺だ。遅い時間にすまん。今、電話しても大丈夫か?」
「坂崎か!春には俺から「飲み」を誘っていたのに、その後全然連絡しなくてすまない」
「いいよ。俺もいろいろバタバタしてるし…」
「で…どうしたんだ?お前から電話なんて」
「ああ、実は…」
しばらく転勤族である大森の勤務地が関西方面ばかりで、首都圏から離れていたため二人はなかなか会えていなかったが、そもそも坂崎は大森にとって中学、高校、大学と一緒で、いわゆる「腐れ縁」だった。特に大学の頃はアルバイト先もほとんど同じところだった。
夜道を家路に向かい歩きながら、坂崎の懐かしい声を聞いているうちに、大森は当時のことを思い出していた。
彼は学生時代、この坂崎と一緒に居酒屋でアルバイトをしていた。そこに、同じくアルバイトで来ていた短大生の女の子と一年くらい付き合っていたことがある。
片付けが苦手な彼女の部屋は大森の部屋より散らかっていて、そのため大森の六畳ワンルームの部屋に二人でいることが多くなったのだが、そしたら…。
いつのまにか大森の部屋まで荷物があふれ、ぬいぐるみまでいっぱいになって。
深夜、居酒屋のアルバイトからの帰り道を、週に半分くらい大森は彼女と歩いた。
よく喋る彼女は
「ねーねーかっちゃん聞いて!聞いて!」…て、1日の出来事を身振り手振りでドラマチックに語る。大森が「へぇ」とか「そう」なんて返事してると
「ちゃんと聞いてる?」 …て、怒る
「…らしいね」が口癖で大森の話には
「かっちゃんらしいね」で片付けちゃう。
でも大森が就活しはじめた頃、二人の間で、ささいなことが原因でのケンカが多くなってしまい、結局、二人は別れてしまった。
大森と彼女が「さよなら」したとき、二人でコーヒーショップを出たら急にポツポツと雨が降り始めた。
「おい傘持ってんのか?」そう聞いた大森に彼女は
「いいの!」
「いいかわるいか聞いてんじゃない!傘あるのか?」
そんな大森に、彼女は口元に少しだけ笑みを浮かべながら言った。
「こんな時にも…そんなこと言うんだね」
「…………」
「かっちゃんらしいね」
なにげなく見たニュースアプリにはアパートのベランダで八歳の子供が亡くなっていた事件に関する記事が載っていた。
その事件の数日前にも近隣の住人から児童相談所に通報があったことが判明したため、現在、警察が両親から詳しく事情を聞いているとのことだった。
そのニュースに気分が悪くなった大森はスマホをポケットにしまうと、窓の外に目を向けた。
やがて彼が乗っていた電車は目的の駅に着いた。あれから、あの日に出会ったネコを、「今日はいるかな?」と、探してみたが、彼が再び、あのネコを目にすることはなかった。しかし、その日も大森は、いつも寄る駅前のコンビニで「魚肉ソーセージ」を二本買い、家路に向かっていた。
そのとき、彼のスマホが鳴った。
それは久しぶりに聞く千葉に住んでる友人の坂崎義男の声だった。
「大森か?俺だ。遅い時間にすまん。今、電話しても大丈夫か?」
「坂崎か!春には俺から「飲み」を誘っていたのに、その後全然連絡しなくてすまない」
「いいよ。俺もいろいろバタバタしてるし…」
「で…どうしたんだ?お前から電話なんて」
「ああ、実は…」
しばらく転勤族である大森の勤務地が関西方面ばかりで、首都圏から離れていたため二人はなかなか会えていなかったが、そもそも坂崎は大森にとって中学、高校、大学と一緒で、いわゆる「腐れ縁」だった。特に大学の頃はアルバイト先もほとんど同じところだった。
夜道を家路に向かい歩きながら、坂崎の懐かしい声を聞いているうちに、大森は当時のことを思い出していた。
彼は学生時代、この坂崎と一緒に居酒屋でアルバイトをしていた。そこに、同じくアルバイトで来ていた短大生の女の子と一年くらい付き合っていたことがある。
片付けが苦手な彼女の部屋は大森の部屋より散らかっていて、そのため大森の六畳ワンルームの部屋に二人でいることが多くなったのだが、そしたら…。
いつのまにか大森の部屋まで荷物があふれ、ぬいぐるみまでいっぱいになって。
深夜、居酒屋のアルバイトからの帰り道を、週に半分くらい大森は彼女と歩いた。
よく喋る彼女は
「ねーねーかっちゃん聞いて!聞いて!」…て、1日の出来事を身振り手振りでドラマチックに語る。大森が「へぇ」とか「そう」なんて返事してると
「ちゃんと聞いてる?」 …て、怒る
「…らしいね」が口癖で大森の話には
「かっちゃんらしいね」で片付けちゃう。
でも大森が就活しはじめた頃、二人の間で、ささいなことが原因でのケンカが多くなってしまい、結局、二人は別れてしまった。
大森と彼女が「さよなら」したとき、二人でコーヒーショップを出たら急にポツポツと雨が降り始めた。
「おい傘持ってんのか?」そう聞いた大森に彼女は
「いいの!」
「いいかわるいか聞いてんじゃない!傘あるのか?」
そんな大森に、彼女は口元に少しだけ笑みを浮かべながら言った。
「こんな時にも…そんなこと言うんだね」
「…………」
「かっちゃんらしいね」