さちこのどんぐり
「いらっしゃ…」
お店の入口の扉が開いた音に反応して、
アルバイト用の黄色い制服に身を包んだ奈津美がそう言いかけたとき
「お疲れさまです」
店に入って来たのは
レストランの運営・管理をしている東西商事の坂崎義男だった。
このレストランのチェーン展開はこの東西商事の外食産業部門が運営しており、坂崎はエリアの担当課長として月に一度、店舗の視察に訪れている。
年齢は奈津美の父親と同世代くらいだろうか…
背も高く、常にスーツを着用し、髪は短く整えられていて、
薄い縁の眼鏡が似合っていた坂崎を
「大人の男性」として奈津美は好ましく思っていた。
とはいえ、当然、坂崎には既に妻子がいて、
千葉に購入した家で家族と暮らしている。
だから、異性として「好き」と思っているわけではない。
「前嶋さん、来月からこのエリアの担当が変わりますよ。
俺みたいなオジサンじゃなくて、
入社して3年目の若い小野寺一樹という者です。
彼は、いま神戸支店にいるんですけど、来月の1日付けで私の課に来るから、
ここを担当させる予定です。」
坂崎のそんな言葉に
奈津美は運命的な出会いになるのでは、と勝手に期待を膨らませていた。