さちこのどんぐり
その日、担当の医師から診察室で

しばらくは検査を繰り返し、その結果によって10日~2週間後くらいに手術。
さらに術後1週間くらいで包帯は取れ、その後少しづつ視力が戻ると説明を受けた。

少しは安心したような、でも手術と聞くと怖いような複雑な気持ちで、付き添いの母親に腕を支えてもらいながら、反対側の手で手摺をたどり、病室に戻る途中だった。

「あ!そこ手摺が途切れてるわよ」

母親に言われ、慎重に手摺を指でなぞると10センチほど切れてるところがあった。

「病院なんだから、こういうとこ、ちゃんとしてほしいわね」

母は少し怒った口調でそう話したが、おそらく普通に見えているひとにしてみれば大したことではないはずだ。

「ちょっと、ここに座って待っててね。売店で買うものがあるから」


病院の入口から横に長く続くカウンターの正面に
会計や薬を待つ患者用の椅子が並んでいた。

そこから病室への廊下に近い椅子に
香奈を座らせて、母親は売店に入っていった。

「おかあさんには心配と迷惑かけちゃったな…」

椅子に座って、香奈はぼんやりと考えていた。

「あ!」

ポケットに体温計が入ってる…
さっき診察受けた時に返し忘れちゃったんだ。

そんなこと考えていると香奈の手からぽろっと体温計が落ちてしまった。

「大変!どうしよう!」
いまの香奈にとって床に落ちた体温計を拾うことは、とても困難なことだった。

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