偽り笑顔
プロローグ
始まりは2ヶ月くらい前の事だった。

なんか、上の空だなって思ったり
手繋がないなって思ったり
キスとか最近しないなって思ったり

…私、素直じゃないってよく言われるけど、こればかりは正直言って寂しかった。


「亮太、最近元気ないけど
どうしたの?」

「え?」

ある日の帰り道。
前まで無かった距離は、歩幅一つ二つ分あいた距離が出来ていて、彼の瞳には一つも私が映っていなかった。
それが少しばかり不満だった私は亮太に思い切って近付いて、疑問をぶつけた。
亮太は、私が近付いた事と疑問をぶつけられた事に驚いたのか少しばかり目を見開いて、おもむろに距離をあけ、瞳を白黒させた。

「あっ、えと、あ、と…。」

「…なに?」

目を彼方此方に彷徨わせる亮太に少しイラついて睨みをきかせながら見上げると、亮太はようやく視線を私に向け、直ぐに逸らした。
地面に視線を向けながら柔らかく微笑む彼は、一瞬だけ罪悪感に満ちた悲しそうな顔をする。

「…ううん、何でもないよ」

「ダウト」

「ほ、本当だって!」

「…ふうん」

「なんだよ!その半信半疑な目!
彼氏の事くらい信じろし…」

「えっ…あ、うん」


”彼氏”
久しぶりに亮太の口から発せられた単語に少なからず私の胸は高鳴った。

「じゃあ、そんな彼氏くんにお願い」

「なに?」

「手繋ご」

亮太が手を繋いでくれるという事に確信があった。
彼氏という単語を、その口から発してくれた彼は、まだ私の事を好きでいてくれていると分かったから。
でも現実、そう上手くいかなかった。

「ごめん、由佳。」
「え…」

困ったように笑った彼は、また前に向き直り、早歩きで私の数メートル前を歩いていく。
このまま追いかけなければ、彼は私なんかに気付くことなく自分の家に帰ってしまうだろう。
悲しいとか、意味分かんないとか、そんな感情はなぜか生まれてこなかった。
反対に、あぁそういうことか。という納得に似たような感情が生まれてきた。
自分がこんなにも冷静なのは何故だろうか。
自分のことは自分が一番分かってると思っていた。けれど分からなかった。
私は何を思っているの?

「亮太…」


亮太、気付いたのに気付いてしまったのに、離れられない女でごめんね。
たとえ、貴方の中の”彼女”という立ち位置が私だとしても、きっと名ばかりの面倒くさいお荷物女だ。

「ごめんね…」

…好きな人には嫌われたくないから潔く離れる。
そんな綺麗事を、前までは言えてた。
けど、一度この立場になってしまったら、そんな綺麗事も馬鹿らしく感じる。
好きな人に嫌われたくないのは事実。けれど、離れたくないのが本心。

「ごめん、ねっ…
亮太…っ」

私ったらまだあなたの事が大好きみたい。


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