彼岸の杜
茜も茜で見たこともないぐらい感傷的になっている。いつも微笑んでいる2人がこんなになるなんて…一体なにがあったんたろう。
声だけじゃない。月明かりで浮かぶ2人の顔は辛そうで苦しそうで、見ているだけでこちらの胸が痛くなって泣きたくなる。
「そのために、君を犠牲にしろというのか……?」
その声に含まれているのは絶望。呆然として信じたくないと言葉にしなくても伝わってくる。
でも、犠牲って…?茜が犠牲になるってどういうこと?
いきなり与えられた情報と信じられないことにあたしの頭の中は疑問でいっぱいだった。
「私には家族がいないわ。悲しむ人だって、」
「僕は、どうなるんだ……」
「清二…」
悲しげに清二さんの名前を呼ぶ茜だったけど、その中にはすでに決意してしまった覚悟を感じた。
痛い…話は全くわからないのに胸が痛い。こんなに思い合っている2人がすれ違うなんて、思い合っているのに、それが届かないなんて。
視線の先で強く清二さんが茜を抱きしめている。はらはらと清二さんの瞳からは涙が流れていて、月明かりでキラキラ光っていてこんな状況なのに綺麗だと思った。
その涙が茜の頰に触れて、茜も泣いているように見えて、あたしの目からも何故か涙が溢れていた。