彼岸の杜
一瞬心臓が止まったと思ったらばくばくと次の瞬間には嫌な音を立てる。今、この人たちはなんて言った?生贄?赤い目の、って……
該当する人物なんて1人しかいない。だってそれが理由で茜はこの村の人から敬遠されているんだから。
それに今気づいたけどこの声、聞いたことがある。そんな機会があったのなんて数回しかないし、人の声を間近で聞いた機会なんて清二さんと村に行った時と茜のもとに誰かが訪ねてきたときだけ。そしてこの声は後者だ。
何人かいた中でこの声は絶対にいた。聖徳太子みたいに人の言っていることを聞き分けるなんてことはできないけど声だけ判別するぐらいならあたしにだってできる。
ぐるぐるとあの日聞いた言葉の欠片と今聞いた言葉が頭の中を駆け巡る。
村は今、食糧に困っていて、限界で、村の人に背負わせるのは気が引けるって…でも茜なら問題ない。なぜ?それはこの村に恩があるから。じゃあ何を背負わせても問題がないの?村の人が嫌がること、したくないと思うこと。
つまり……生贄?