彼岸の杜
「茜!!」
転がり込むように家の中に入れば手に白い着物を持った茜が驚いたように目を丸くしてこちらを振り返った。
「どうしたの、朱里?そんなに慌てて…」
村で何かあったの?と心配そうな表情を浮かべてあたしの背中を撫でてくれる茜にどうしようもなく安心した。ちゃんとここに茜がいることが嬉しかった。
口を開こうとして躊躇う。生贄云々って話を聞いていてもたってもいられずに勢いのまま帰ってきちゃったけど、もしかしたら茜はそのことを知らないかもしれない。そしたら話を聞いたときショックを受けるんじゃないか。
だって茜はこの村のことが大好きで、この村にいる人のことが大切で、そんな風に思っている存在が実は茜のことを生贄にしようと思ってるなんて…
もやもやと消化できない思いが喉のあたりにこもって言葉が出てこない。そんなあたしに茜はただ何も聞かずに背を撫で続けてくれた。
ふと茜が傍らに置いた着物に目が行く。茜は着物を愛用しているけどこんなの着ているところは見たことないし、箪笥にもなかったと思うけど…
それに着物というよりは白無垢?花嫁が着るようなあれにも見える。真っ白だし。裾のところが短く見えるから袴なのかもしれない。こんなのどうするんだろう。