彼岸の杜
女の子はびっくりして顔をあげるとさっきの男の子が目の前にいて笑顔を自分に向けていました。不意に手を伸ばされて動くこともできずにいるとこぼれていた涙がそっと拭われます。
優しいぬくもり、あたたかな言葉、柔らかな視線、男の子から向けられるそれらはどれも偽りのないもので初めて女の子に向けられた純粋でまっすぐなものに女の子は悲しみからではない、嬉しさから涙を流しました。
初めてわんわんと大きな声で泣きじゃくるように泣きました。その間もずっと男の子は女の子のそばで手を握り、あたたかな言葉をかけて、優しく見守ってくれました。
「ぼくは清二、きみは?」
涙が落ち着いた頃、男の子から名前を聞かれるけれど女の子は答えられません。なぜなら女の子は今まで自分の名前など呼ばれなかったからです。自分の名前があるのかどうかでさえわかりませんでした。
そう伝えると清二と名乗った男の子は少し考えるように口を閉ざして少し躊躇いがちに言いました。
「じゃあぼくがきみに名前をあげてもいいかな?」