彼岸の杜



紅……それはきっと清二さんがいつか話してくれた茜の、清二さんがあげた清二さんだけの特別な名前。


こんなにも深く強くまっすぐにただ1人のことだけを想って、想って、想って…それなのにこの恋は実らない。誰にも侵せないほどに強く2人は想いあっているのに叶わない。


自分のことじゃないのに苦しくていっそのこと吐き出してしまいたいぐらい胸が痛い。これよりずっと清二さんは痛いんだ。きっと茜だって…


グッと唇を噛みしめるとじんわりと鉄の味がする。苦しいよ、悲しいよ、痛いよ、切ないよ、つらいよ、泣きたいよ、投げ出したいよ……


確かにそう思うけど、今はそうだけど!



「あたし…忘れてほしくないっ、忘れたくない!!」



清二さんの想いも茜の想いも、全部全部それはきっと大切なものでどんなに苦しくて悲しくて痛くて切なくてつらくて泣きたくて投げ出したいものだったとしても忘れてはいけないんだ。


だって忘れてしまったら清二さんの想いも茜の想いもなかったことになっちゃう。そんなの絶対に嫌だ!例えほかの村の人たちが2人の想いを誰も知らなくてもあたしは見て、聞いて、知った。だからあたしは忘れたくない…!茜にも忘れないでほしい!



「お願い、茜の居場所を教えて!!」





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