彼岸の杜
まぁその心配をする前にあたしってこの辺りのこと全然知らないし(当たり前である)迷子になって森の中で遭難なんてことになりたくない。高校生にもなって迷子とか……絶対やだし!!
ふと、かすかに髪を揺らす程度の風とともにほのかに甘いような香りがしたような気がした。この香り、なんだか嗅いだことあるような気がする。
なんだったかはわからないけど誘われるようにその香りの方へ足を進める。迷子になるとか茜を一刻も早く見つけなきゃってことは完全に頭から抜けていた。
ただ、この香りの正体だけが純粋に気になって、知りたいと思った。
玄関を出て左手の方には小さな神社があった。と言ってもあたしのいたところと繋がってるみたいだから外から見て改めて気づいたんだけど。
小さくて古いけどちゃんと掃除されてて綺麗な神社。茜が掃除したのかな。お賽銭は…なさそうだね。って、そんなとこ見ちゃうあたりあたしってば罰あたりかも。
あははと乾いた笑いをこぼしながら神社を通りすぎてぐるりと裏手の方に回ってみる。確かこっちだと思うんだけど…
あのほんのり甘い香りがしているようなしていないような曖昧なものになっていてちょっぴり不安になりながら足を運んでいると、あたしの視界が鮮やかな赤で埋め尽くされた。