彼岸の杜



赤、朱(あか)、緋(あか)……全てが鮮やかなあかいいろ。


その真ん中に立つのは艶やかな黒い髪をなびかせて緋色の瞳を和ませている茜だった。


すごく綺麗……まるで何かの小説とかに出てくる1枚の絵みたい。どこか現実味がなくて、夢みたいで…茜が人間じゃない、もっと神聖なものに見える。


思わず息をすることを忘れて茜の姿に見惚れているとその緋色があたしの姿を捉えた。柔らかく細められる瞳にあたしの心臓はドキドキと音を立てた。



「おはよう、朱里」



穏やかに微笑んだその表情が慈しみに溢れていて、聖母ってこういう人のことを言うのかなと漠然と頭の中に浮かんだ。



「朱里?」


「へ、あ!お、おはよう茜!」



返事をしなかったあたしにキョトンとした茜が再び呼びかけてくれてあたしは慌てて挨拶をした。


どうしたの?と首を傾げる茜に笑って誤魔化す。いやだって茜に見惚れてて返事できなかったとか知られるの恥ずかしいし!!


あわわと挙動不審なあたしに茜はクスクスと柔らかく笑みをこぼす。





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