彼岸の杜



お金持ちが増えた。普通に生活できる人が増えた。


でもその傍らでお金に困る人も増えた。生活できないくらいに困窮してる人もいる。


いつだって、そういう環境の中で一番に見放されるのは力のない小さな子どもだ。特に子どもにとって親は絶対的な存在だから。


テレビを付ければそう低くない頻度でそういう情報は流れてくる。そう、流れていて知っていたはずなのに。



「あたし、こうやって身近に感じないとちゃんと考えられなかった」



実際にあるってわかってたのに、それはただわかってただけで結局はわかってなかった。わかってたつもりなだけだった。こうやって身近に感じて初めて実感する。


テレビとかネットとかじゃない、直接苦しんで悲しんで、それでも少しでも生きるための選択をした人から聞く話。それを聞いてようやく思った。


これは現実の問題で、本や漫画みたいな架空の話じゃないんだって。



「最低……酷いですよね、あたし」



全部他人ごとだった。苦しんでいる人が、悲しんでいる人が、泣いている人が、傷ついている人がどこかでいたのに、それをないことにしてた。


自分には関係ないって目をつぶって、耳を塞いで、無意識のうちに話を聞かずにいた。見て見ぬふりとか一番最低だ。





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