彼岸の杜



「茜のことを何も知らないくせに、彼女のことを全て否定するようなことを言うのはやめてください」



清二さんの強い感情にはさすがに気づいたらしく少し狼狽える清二さんのお母さんだったけどすぐにふんっ、と強気に見据える。



「な、何よ、全部本当のことでしょう。あんな不気味な瞳を持って…あの娘が来てからろくなことがないのもきっとあの娘がっ」


「母さん!」



咎めるような、それでいてどうしてわかってくれないんだと責めるような、届かない思いに悲しんでいるような、そんな清二さんの声。


それだけ清二さんが茜のことを大切に想っていることがわかる。初めて会ったときからわかっていたけど、その想いの強さをまざまざと見せられた気がした。


清二さんのお母さんはまだ何か言いたげだったけど後ろにいたあたしの存在に気づいたのか不満げながらも口をつぐみ、すぐに家の中に入っていった。



「……………」


「……………」



………ち、沈黙が重いっす!!


何を言えばいいのかわからず話さなかったけど逆に気まずい。いやだってなんて言えばいいんだろう?世の中の人はこういう時どう反応するわけ?


まさか清二さんのお母さんと会っちゃうなんてすごい偶然でしたねぇ、なんて明るく言えないし!だからと言って清二さんのお母さんのこと悪く言うのは、なんかこう……ダメでしょ?!





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