彼岸の杜



村のある方向に顔を向けて憂いを帯びた表情を見せる茜は本当にこの村のことを大切にしているんだろうなぁって思う。


だってあたしに話してくれる村のことも自分のことみたいに嬉しそうに話してくれたもん。これで嫌いならハリウッドもびっくりの演技力だよね。



「そうだわ。さっきの清二の話なんだけど、朱里にも伝えておくわね」


「え、いいの?」



そりゃ多少は気になってたけど。だってわざわざ茜と2人きりでって前置きされた話だったし…あたしが聞いてもいいものなのか?


躊躇うあたしに茜は大丈夫だと言うけど、いやいや茜が大丈夫でも清二さんからみたらわからないからね。聞いちゃうけど。



「ふふ、本当に大丈夫よ。しばらくの間ここには寄れないってだけだから」


「えっ!なんで?」



清二さんここに来ないの?!あたしのお礼は?!!


食いつくように質問するあたしにパチパチと宝石の瞳を瞬かせ面白そうに笑った茜はその理由を教えてくれた。


と言っても単純なもので、この村では今年あまり作物が取れなかったから他の村に食料の援助を申し出るために清二さんが行くことになったとか。


清二さんはこの村の村長の子供だからと説得されたらしい。清二さんのお父さんは年だしお兄さんはお嫁さんのお腹の中に子供がいるから、清二さんしか行くことができない、と。





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